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戦場のピアニスト



タイトル: 戦場のピアニスト
原題: The Pianist
(2002年、ポーランド・フランス)

監督: ロマン・ポランスキー
出演: エイドリアン・ブロディ、トーマス・クレッチマン、フランク・フィンレイ、モーリーン・リップマン、エド・ストッパード 他




レビュー&コメント

 以前、NHKが放映した『映像の世紀』というドキュメント番組で、ベトナ
ム戦争当時のニュース映像を見た。のどかな農村の路上で、米兵がベトナム人
男性を小型拳銃で撃ち殺す場面だ。
 拳銃を向けてから引き金をひくまでの動作があまりにも無造作で唐突だった
のにショックを受けたのを覚えている。くたりとくずおれた男の姿に吐き気を
もよおした。ホラー映画のようにおおげさに鮮血が飛び散ったりしたわけでは
ないのだが・・・。

 『戦場のピアニスト』で描かれる数々の凄惨なシーンはそれと同じくらい生
々しい。観ているのがつらいくらいだ。
 第2次世界大戦中、ドイツ軍に占領されたポーランドが舞台。ドイツ軍はユ
ダヤ人から財産を奪い、劣悪な環境の居住区に押し込めた。飢えた人間があふ
れ、わずかな食糧を奪い合う。おもしろ半分で人間が撃ち殺され、道ばたに死
体が転がる。息苦しくなるような場面が続く。

 主人公のウワディク・シュピルマンは実在のユダヤ人ピアニスト。迫害のな
かを生き抜き、2000年に88歳で亡くなったという。演じるエイドリアン
・ブロディがいい。
 ブロディの演技には「この俺を見て思うぞんぶん泣いてくれ!」というよう
なあざとさがない。ちょっと困ったような悲しげな表情を浮かべ、オロオロと
右往左往するだけ。この控えめな演技が映画の迫真性をいっそう高めている。

 シュピルマンはドイツ軍によってすべてを奪われる。家も財産もピアノも失
い、家族は強制収容所に送られる。戦火が激しくなると、彼をかくまってくれ
ていた友人や支援者も姿を消す。たったひとり、廃墟となった街に隠れ住むシュ
ピルマンは、本能のままに水や食糧を求めてさまよう。

 シュピルマンを他の人間と区別していたものは、すべてなくなってしまった。
家族関係や友人関係もない。音楽的才能を発揮できる場もない。喜びや悲しみ
といった個人的な感情すらマヒしてしまったようだ。残されたのはすべての人
間に共通する「人間の本質」とでもいったようなものだけ――。この作品はこ
こで単なる反戦映画を超えた普遍性を獲得した。
 髪もヒゲも伸び放題になった彼の姿が、すべての人間の原罪を引き受けて十
字架にかけられたイエス・キリストにそっくりなのは、単なる偶然ではあるま
い。

 そして映画の終盤。彼は何年ぶりかで再びピアノを弾く。廃屋の中で鍵盤を
叩くたびに、しだいに「ピアニスト=シュピルマン」が再生していく。胸を打
たれる場面だ。
 シュピルマンに再びピアノを弾かせたのが廃墟で偶然出会ったドイツ軍の将
校だった、というのもいい。生き延びたシュピルマンは将校を「恩人」と呼ぶ。
ナチスドイツや、あるいは戦争そのものに対する怨嗟や憎悪が洗い流されてい
くようだ。

 暗く重苦しい映画なのに、観終わったときにはなんだかすがすがしい気分に
なっていた。



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  Text by 輝 2003/2/21  メールマガジン掲載
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