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カイロの紫のバラ



タイトル: カイロの紫のバラ
原題: The Purple Rose of Cairo
(1985年、米)

監督: ウディ・アレン
出演: ミア・ファロー、ジェフ・ダニエルズ、ダニー・アイエロ、エド・ハーマン、ダイアン・ウィースト 他




レビュー&コメント

 こんな短編小説を読んだことがある。タイトルも作者も忘れてしまったが、
ストーリーだけはよく覚えている。

 マルセル・カルネの名作映画『天井桟敷の人々』(45年)を観ていた男が、
ラストシーンの群集の中にチラと友人の顔を見かける。確かにあいつだ。でも、
なぜ? 
――それが発端。

 友人は筋金入りの映画マニアで、好きが高じてフィルムの中の世界に入り込
む超能力を身につけていた。この能力、コロンブスのタマゴみたいなもんで、
ちょっとしたコツさえ覚えれば誰でもマネできるという。

 ウワサが広がり、映画の中に入り込む人が次第に増え始める。誰も味気ない
現実世界になんか戻ってこない。1人消え、2人消え、やがて世界中のすべて
の人間がスクリーンの中に消えていく・・・という筋書き。

 フィルムの中の世界。確かに魅力的だけど、すぐに飽きちゃうような気もす
る。
 映画で描かれる世界は現実の一面だけをわかりやすく誇張したものだ。そこ
が魅力でもあるのだが、そのシンプルさを物足りなく感じてしまう人もいるだ
ろう。人類すべてがスクリーンの向こうに消えてしまうことはなさそうだ。そ
う思う。

 さて、今回紹介するのは『カイロの紫のバラ』。こちらは逆に映画の登場人
物が現実世界に飛び出してくるファンタジー。ガキっぽい話だと思うかもしれ
ないが、そんなことはない。大人向けのビターテイスト。

 主人公はさえない主婦、シシリア。お気に入りの映画『カイロの紫のバラ』
を観ていたら、ロマンチックなヒーロー、トムがスクリーンから飛び出してく
る。トムはいつも客席に座っているシシリアに恋してしまったのだという。
 
 主役のトムがいなくなってしまったので、映画のストーリーはそこでストッ
プ。他の登場人物たちは「オイオイ、どうすんだよ」とスクリーンの中で相談
を始める。観客はボーゼン。大騒ぎになる。このへんはコメディっぽい。

 この珍ニュースはトム役を演じたハリウッドスター、ギルの耳にも入る。
『カイロの紫のバラ』は全米で公開中。もし、すべてのフィルムから「トム」
が抜け出してしまったら大変だ。ギルはトムを映画の中に連れ戻そうと躍起に
なる。
 やがて、シシリアをはさんでトムとギルの奇妙な三角関係が成立する。

 トムは映画そのままにあくまでロマンチックでカッコいい。でも、しょせん
は映画の登場人物なので、何だか薄っぺらくて深みがない。ギルは大スターと
はいえカッコ悪いところもある人間くさい生身の男だ。容姿はまったく同じな
2人。はたしてシシリアはどちらを選ぶのか――。
 結末はほろ苦い。今思い出しただけで目頭が熱くなる。

 『カラー・オブ・ハート』(98年)という映画がある。こちらはテレビの
ホームドラマの世界に迷い込んだ兄妹の話だ。フィクションのキャラクターと
現実の人間のズレを面白おかしく見せるところは『カイロの紫のバラ』と似て
いなくもない。
 だが、大きな違いもある。『カラー・オブ・ハート』では主人公たちの影響
でフィクションの世界が次第に現実に近づいていくのだが、『カイロの紫のバ
ラ』のトムと現実世界の間には深いミゾがあり、決して飛び越えることはでき
ないのだ。そこんとこがいっそう切ない。
 両方見比べてみるのも面白いかも。



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  Text by 輝 2002/10/11  メールマガジン掲載
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